小説の感想・レビューです。ネタバレあり。物凄く更新遅いです。ご了承ください。訪問ありがとうございます。
2017/101234567891011121314151617181920212223242526272829302017/12
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない  A Lollypop or A Bullet (角川文庫)砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet (角川文庫)
(2009/02/25)
桜庭 一樹

商品詳細を見る

前書き
子ども頃は実弾主義だって、砂糖菓子の弾丸を誰しもが撃っている。
砂糖菓子はだれもが憧れる。
だってそれは自分が持っていないものだから。
それは自分が欲しいだから。
だけど、生きていくためには実弾が必要だ。
実弾は私たちの生活をいつも貫いてくれる頼れる道具なのだ。
成長していくにつれて、私たちの生活を撃ちぬけない砂糖菓子の弾丸が無意味なものに思えてくる。
だけど、彼女はいつも砂糖菓子の弾丸ばかりを撃っている。
いつも「撃ち抜ける」、「撃ち抜ける」といって、床には砂糖菓子の欠片でいっぱいだ。
だから、彼女の周りには、誰も近づこうとはしなくなった。だれも彼女には期待しなくなった。
彼女はいつになれば、実弾を撃つのだろうか。


ジャンル・タグ 
青春サスペンス・現代・重量感(小)・裕福が貧乏より不幸な場合とは・虐待と軟禁生活が生む愛情と憎悪・安物がブランドものより価値がある場合とは・子どもは親を選べないということ

評価  
最高  

ぞっとして悲しくて切ないすぎる物語。シリアスなストーリーです。元気な時、気分が高揚しているのを鎮める時に読むのが良いです。決して気分が沈んでいるときに読むのはやめましょう。大して厚くないので読みやすいです。作品は娯楽的なドラマチックさを持ってはいますが、物語に秘めている問題は現代に抱えている問題を浮き彫りにして個人的には好きな物語でした。彼女が道を開けていたら、どんな生活をしていたのでしょうか。彼女を想う。

感想ネタバレ↓
まず、タイトルと装丁がいいセンスしているなと思いました。昔はよく短い端的なタイトルがインパクトがあり、短いタイトルのものが店頭に並んでいた印象がありますが、今はむしろ、「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」のような主語と述語だけの名詞にならない長いタイトルの方がグッとくるものがありますね。装丁はライトノベル版と単行本版は別にして文庫版はさわっていたくなる装丁で気に入りました。

主人公山田なぎさは、女子中学生で、未亡人の母と引きこもりの兄という家族がいます。お金を入れてくるのは母だけで、いつからか人間の生活をやめ、神が舞い降りた兄は、部屋からでてこなくなり趣味に没頭し、彼女は貧乏な生活を強いられて自分の人生に引け目を感じていました。そんな折、田舎町に都会からセレブな転校生がやってきました。名前は海野藻屑(うみのもくず)、そのインパクトな名前と有名な元ミュージシャンの娘である可憐な彼女はクラスの中でも注目の的でした。不思議な妄想に近い言動を言い放つ転校生藻屑は、憧れのまなざしとは裏腹に好奇なまなざしでみられることが日毎多くなっていきました。まったく、藻屑に興味を抱かない山田なぎさは藻屑の好意をもたれ、一緒に行動するようになっていきます。藻屑が言う不思議な言動になぎさは、彼女の心に隠された闇に気づき、直接闇を垣間見ることとなるのです。それは自分の生活より不幸なものを感じさせていたのです。

 兄は現代の貴族なのだと思う。
 働かず、生活のことを追わず、ただただ興味のあるものだけを読んで、考えて、話して、暮らす。現に兄は中学に行かなくなって高校も受験しなくて、家から一歩も出なくなって三年がたったいま、昔よりずっときれいで、夢みたいな容姿をしている。あたしも母も、かつての兄とは別の存在、美しい生き物を当局で秘密で飼っているような感じがする。霞をくって生きている兄には、でも、現実サイドのあたしからしたら、とてもお金がかかる。
 通販で買い続けているわけのわからないものたちのために、生活保護のお金も母のパート代も父の保険金も、夢みたいに消えていく。
 兄はわかっているのかいないのか、なにも言わない。勝手にいろいろ注文し続ける。そしてずっと部屋にいる。


桜庭さんのいいところは、現状の社会問題を、社会問題として伝えようとしないところだと思いました。ここのくだりも、ほかの文章で社会の現状を浮き彫りにしていても、活字にはするものの、風評するわけではなく、読者の判断に委ねている所が好感がもてます。読んでいる人が考え、自分の生活に消化していくことが重要ですね。風評したところで気づかない人はいつまでも気づかないふりをするものですから。


「山田なぎさ。寒いね」
「これ着る?」
藻屑は安物の無地のカーディガンを宝物みたいに大事そうに受け取った。
藻屑がうれしそうに「ねぇ、この服もらっていい?」
「…だめ!」
{ちぇぇっ}
藻屑はふくれっ面をした。そしてまたミネラルウォーターをぐびぐび飲んだ。
あたしは初めて、あぁ、海野藻屑のほうがあたしより不幸なのだ、と気づいた。なんてかわいそうなのだろう、と思って、それまでの反発とか、あくまで金持ちの幸せな子だと思いこもうとしていたこととか、こんなやつに自分の気持ちは意地を張っていたこととか、そういう防波堤が一気に崩れた。そして海野藻屑のことを初めて、友達だ、と思った


ここの「あぁ」という部分がとても好きです。気づいてしまったというのが、なぎさの藻屑に対する好意の受諾が
さわっと鳥肌がたつ思いでした。高いものじゃなくて、安物だが、彼女が着ている物だから欲しくなること、なんかすてきです。、


ストックホルム症候群というのがキーワードになっていますが、読んでいない人はネタバレになるので知らないなら、知らないまま読んだ方がいいでしょう。

憎悪と愛情がこんなに紙一重にあることが罪深いですね。
「たとえば、誘拐された被害者というものは、自由を奪われて、考えることも取り上げられて、そのまま狭い密室で犯人と何日も過ごすんだ」
「するとね、奪われた思考のために空っぽになって器に、新しいものがたっぷり隅々まで入ってしまうんだよ。」
「誘拐や人質事件の場合は、犯人への同情や忠誠心がそれにあたるんだ。長い時間を拘束されるほどに、被害者は救出された後までも犯人の味方となり、法廷でも彼らを庇う発言を繰り返す」


たまにニュースにあった監禁王子だが、子どもに虐待暴力を加え軟禁する親たちだが、数分のニュース映像で流れていただけでは、それは何の感傷もなく過ぎ去っていきますが、そういう現実は今も昔もあると思うとなんだが、ぞっとして、怒りを覚えます、それでいて、DVをうけた子ども、抵抗できない人にはすごく悲しさを覚えてしまいます。間接的でも、そういうことを頭で知っておくべき、意識しておくべきものだと思います。


「山田は高校に行け。働くべきは兄の方だ。そいつは、山田がなんと言おうと、なまけもののくそ貴族だ」
「…いやだ」
「この件についてはおかあさんも入れて、三人で話そう。家まで行ってもいいぞ。その兄と、先生は対決するぞ」
「先生なんかに…」
「ひきこもりはたいがい、家族には口がたつんだ。家の中では専制君主なんだ。だけどその牙城は弱い。他人とはまともに口が利けなかったり、目も合わせられなかったりするんだ。山田にもわかる。兄に必要なのは他人だってことが。それと、山田に必要なのは安心だってことが」

最後に出てくる担任の先生もなかなかいいキャラクターですね。ごめんなさい、この先生のセリフで社会問題を風評してましたねw
こんな中学校の先生は今いるんでしょうかね。昔の先生がいいとかじゃなく、今の先生が悪いとかじゃなくて、今の風潮が今の先生たちの言動を束縛しているから何も言えないですよね。ちょっと行動を起こしただけで、裁判、報道ネタにされたんじゃ、身の負担もないですよ。そしたら何もしない方がよっぽど身のためですよ、先生たちにすれば。

この物語は京極夏彦の「魍魎の箱」を背後に感じる作品でした。決して似ているわけではないですが、藻屑のたどる運命が中学生の加奈子とすごくリンクしていて思い出してしまいました。どちらもセレブでいて、どこか浮いていて友達がいなくて不幸であるところが。そして、最後も…。

とても悲しい作品でした。だけど嫌味じゃないです。それは山田なぎさが「砂糖菓子の弾丸を撃たない」と決めた時の最後の文章を読んでいるから。最後の文章を読んで私はそれで納得できたから。ここには載せないですが。

私も生活していくために、毎日毎日実弾を撃ち続けているわけですが、実弾を撃つことはとても疲れるんです。何のために私は、撃ち抜いた穴の先ばかり見なければいけないのかと。だから、こうやって、色々な本を読むように、ブログを更新するように、砂糖菓子の弾丸を撃って壁に散りばめられた砂糖のアートにうっとりしてしまうのです。もし藻屑の父親が山田なぎさが教えたように実弾の撃ち方を藻屑に教えていたら、未来の未来の先まで撃ちぬいていただろうに。





素敵な言葉どもが記事の跡

きっかけは些細で、でもどうしようもなくて、それで人は変わる。

わかるな~なんか。

先生のセリフです。
「俺は大人になって、教師になって、スーパーマンになったつもりだったから。山田のことでも、おまえに嫌われてもいいから、高校行けるようになんとかしてやろうって張り切ってたし。海野の家だってなんとかするつもりだった。ヒーローは必ず危機に間に合う。そういうふうになってる。だけどちがった。生徒が死ぬなんて。」
「あぁ。海野。生き抜けば、大人になれたのに…」
「だけどなぁ、海野。おまえに生き抜く気、あったのかよ…」


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
にほんブログ村 本ブログへ


この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
この記事のトラックバックURL
http://kkk12liliyom.blog69.fc2.com/tb.php/102-bc9df9fc
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。