小説の感想・レビューです。ネタバレあり。物凄く更新遅いです。ご了承ください。訪問ありがとうございます。
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黒と茶の幻想 (上) (講談社文庫)黒と茶の幻想 (上) (講談社文庫)
(2006/04/14)
恩田 陸

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黒と茶の幻想 (下) (講談社文庫)黒と茶の幻想 (下) (講談社文庫)
(2006/04/14)
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前書き
人間というものは、苦痛や不幸がないと、自分たちが生きているという実感がない。せっかくいつまで良い夢を見ていられるというのに、彼らは決して満足しない。幸せであることに疑問を持つ。幸せが続いていると、彼らはだんだん不安になるのだ。「こんなに幸せが続くはずがない」「なんか幸せすぎて怖い」
自ら悪夢を作り出さずにはいられない。

それは人間の本質をついている。

地球が誕生して何十億年経てから今まで「変化」しないということがなかったはずだ。地球が誕生したのも、人間が誕生したものも、秩序が乱れ、「変化」が起こり続けた賜物である。すなわち、人間が今も生き続けているのは「変化」という線路に乗り続けているからだ。そして今後も人間が生き続けていくにはやはり「変化」という線路を進み続けることが必要である。
「変化」は「エネルギー」を必要とする。
「エネルギー」を使って進み続ける人間の生命。人生。

一方で、幸せとは秩序だ。秩序は「エネルギー」を要さない。それではいつまでたっても、「現在」という駅から出発することはできず、「変化」という路線を走り始めることができない。つまり、人間の死を意味する。常に、生物にはハッピーエンドが許されていないのはそのためだ。だからこそ、彼らは幸せに懐疑的になるのだ。劇的な展開を求めることもそのためだ。人間のサガというやつである。

わたしは今、読み進めている、この物語に「変化」を求めて、ページを滑らせる。
やはり、私も人間のサガからは逃れられないのだと知る。


ジャンル・タグ 
旅と追憶のミステリ・現代・重量感(大)・4人の視点・4人の考え方・4人が持っている謎・4人の関係性・主人公バトンリレー・初秋の壮年男女の旅・主観的な考えと客観的な意見・過去の人生を振り返る物語


評価  
最高  

「麦の海に沈む果実」シリーズ(それぞれの物語は個々別物ですが、キーワードがリンクしているシリーズ)。シリーズで3番目に読むべき小説(個人的に)。

なかなか読みごたえがある本でした。分厚くはないですが、恩田さんの思考がぎっしり詰まった本という感じがして、読み進めていくのは、重みがありました。ミステリであり、サスペンスであり、ジャンルとしては至極な味わい。時代設定は現在であり、初版が古いので時代錯誤がちょぴっとありますが、気にならない程度です。恩田さんって、人間観察、分析をするのが好きなのかもしれないと思わせる内容でした。人の心を読める力を備えているかもしれないですね。日常に起こる社会生活も、他愛無いちょっとしたミステリアスなエピソードも、男女の色恋沙汰も、まずは、観察から。そして分析して推理する。それが恩田さんって感じでした。季節は9月の秋。


感想ネタバレ↓
この小説は「3月は深き紅の淵に」とリンクした物語がつづられています。また、「麦の海に沈む果実」で使われた名前の別人格のキャラクターが出てきます。
「三月は深き紅の淵に」の第一章 待っている人々に、出てきた幻の本『三月は深き紅の淵に』の第一部「黒と茶の幻想」から由来した物語であることが読み比べるとわかります。ただ、幻の本の第一部とこの小説が同じタイトルであり、リンクしているといっても、物語が似ているというだけで、同一の物語ではありません。2つの物語は全く別の時間軸です。いいかえれば、この小説は、幻の本の第一部の設定を元に作られたという感じでしょうか。

高校・大学時代以来の知人同士が日常生活から離れひさしぶりに4人集まり、「日常の謎」をテーマに、観光名所として名高いY島を旅行する物語です。

第一部 利枝子 ☆☆☆☆
淡々と状況を把握してから話し出す落ち着き払った利枝子が主人公。理性的で、頼れるお姉さん的存在の彼女。一見、気丈であるが、彼女には脆い部分があり、その闇が衝かれると自制心を失う。暗い森が見え隠れする。

最初は利枝子目線で、この旅が始まった経緯などが回想を通して語られます。唯一、この物語で主人公になりえない4人の友人の菅谷潔というキャラクターが登場します。この段階を読んでいるときは特に感じませんでしたが、この「三月は深い紅の淵に」のシリーズの別のシナリオで登場してくるのではないかという気がします。(私はまだ、このシリーズ2冊目)付箋とならなくても、伏線となりえる存在を置いといた恩田さんを尊敬します。上巻はとても会話文が多いです。話がどんどん進むにつれて、小話も少なくなり、心理描写が増えていきます。利枝子の章は、エピローグのようなもので、饒舌な文章ではありましたが、予備知識を得たかなとぐらいの感想です。利枝子はどんな時も蒔生のことを、蒔生とのエピソードを回想します。そこに利枝子の蒔生への思いが伝わってきます。すきななのだろうなという。しかし、どちらも結婚しているという複雑な関係。そこに横たわる過去。

この章で最後で、「オゾンが満ちている」という表現がありますが、オゾンが森に満ちているわけないのでこの文章は間違いです。たぶん、酸素が濃いということを表現したい文章なんだと思います。オゾン=酸素ではありません。オゾンは有毒物質ですし、常温常圧下にあれば、オゾンは不安定な物質なので酸素などに分解されてしまうはずです。山、森に満ちているとしていたら、雷雨がふっていたとか、何らかのトラブルで極度に紫外線が強いとか、高圧電線の鉄塔が近くにある等というなら設定としてはいえるかもしれません。比喩で「オゾンのような匂いに満ちていた」のように使うならいいですが。

第二部 敦彦 ☆☆☆☆
純情にあふれた率直な敦彦が主人公。美男であるが、風変りであることで、世間から白い目で見られがちである。相手を受け入れると不思議な寛容さをある。愛情深いところがあるが、それは長所でも短所でもある。

ここまで読んでくると、なんて情報量の多い小説なんだろうって気になってきます。疲れるのもあるけど、やっぱり充実したミステリな話が満載でした。敦彦の姉の話はなんだかとてもオドロオドロしくて驚きつつも悲しい結末だなと思ってしまいます。答えはこの章で語られるけれど、答えの解説は第三部で知ることとなります。違う視点からみる同じエピソードの答えは4人4色で、その違いに味わい深いものを感じ、充実感が少しありました。また、二人の視点が残されていると思うとわくわくします。

第三部 蒔生 ☆☆☆☆☆
いつも「寛いで」いる蒔生が主人公。とても現実主義で他人に自分というものを語らないし見せない。その点が、冷静で紳士的な男に見せ、ポーカーフェイスな彼は異性からもてる。いつでも、誰といても孤独でありそんな自分が好きである。誰も彼を見ていない。

節子が指名手配の男をあてた話の『耳がおんなじだ』は鳥肌がたちました。このオチは個人的に素晴らしいと思いました。

人が何を考えているということを分析している恩田さんが見えます。ストーリーをつなげるときに前の小話に出てきたキーワードを次の小話のテーマにしている展開がよくみられます。たとえば、会話に「優しい」という単語が出てきたら、そのキーワードが主人公の思考に入り込んで、次の話のテーマになっていきます。連想ゲームのように、それでいて行き当たりばったりの4人の雰囲気がとても良いです。恩田さんのすごいところは、記憶を引き出してくれるところ。日頃、テーマにしようとしない痴話やミステリアスな話など、数多くのエピソードを展開していくので、私の今まで、思い出しもしなかった小学生の記憶や過去出会ったことのあるひとの顔を本を読んでいて自然と連想させてしまいます。それはなんとも苦くも懐かしいです。


<本文より>
俺はああいう時の利枝子が一番好きだった。俺に注意を払っていない利枝子。何かに集中している利枝子。そういう彼女が一番美しく見えた。俺を愛するような女は利枝子ではない。俺の好きな利枝子は、俺を愛するような女ではない。皮肉なものだ。俺は俺につき合っていない利枝子が好きだった。


おっちょこちょいなところが好き。恋人になったときに、他人にはみせない弱気を自分にだけ見せてくれるところが自分を満足させることってありますよね。人のサガは残酷なもので、それが愛しさから憎しみに変わるということもしばしばです。例えば、二人が結婚して長い間生活をともにしたとき、さっきほどの「他人にはみせない弱み」がすごい嫌悪感を伴うものになることはあるでしょう。蒔生の場合、利枝子の弱みをみせるという行為自体が蒔生を嫌気がさしています。これも人のサガでよくあることですね。蒔生の思考にはとても共感できる部分がありました。相手を追っかけてるときはとても好きな相手だったのに、振り向いたら、冷めてしまった、なんてよくある話です。そのよくある日常をこれほどまで具体的に描きあげるのもなかなかいないのでとても惹きつけられました。恩田さんが人の恋愛だけじゃなく、人の心理というものを常頃から考えていて、文章にしているんだなってことがよくわかります。「わかるわかる」がよく出てきますし、納得させられたり、共感したりします。

蒔生を読んでいて思うのは完全に、この男が主人公なんだなと感じました。

第4章 節子 ☆☆☆☆
快活で健康的な誰とでも仲良くなれるざっくばらんな節子が主人公。物事を合理的で考え、人間を観察し、人の心を読む力がある。4人の中で一番常識人である。緩衝剤の役割。彼女は空気を和ませる。楽しく気が許せる友人、気軽に付き合える友人である。つかず離れずにいる彼女、いいかえれば、彼女は孤独である。

恩田さんの物語の特徴として合理的な視点はあるが、科学的な視点はほとんどないですが、この節子の章に限って言えば出てきます。だいたいはカルト的なものはそのまま受け入れて進める節があります。
それにしても、節子だけ、なんとなく3人と違って蚊帳の外という感じました。文章の雰囲気が恋愛色が薄まって、人生論、ビジネス観などが垣間見えます。ある意味、3章で物語は完結している感じました。節子の章は「黒と茶の幻想」外伝みたいな物語でした。

疑問が一つあって、蒔生の離婚の話を利枝子に伝えるシーンが書かれていないですよね?節子と敦彦が利枝子に伝える方向で二人が話あっている件は書かれているですが、そのあと、伝えるシーンなしに、話が進むと利枝子がなぜかもう知っています。伝えるシーンは書いてほしかったですが。私の見落としですかね?



個人的な感想としては、上巻より下巻が好きでした。さまざまな日常における謎、事件を4人が語り合っていくんですが、この小説の謎の事件の一つ、失踪した女性・憂理にまつわるエピソードが一番詳しく書かれていたのが蒔生の章であり、このテーマは4人とも違う視点で共有しているエピソードでもあり、すごく面白かったです。たぶんこの謎がこの小説の本筋であると思います。個人的にはこの小説の主人公を一人に決めるとしたら、蒔生なんだろうなと思いました。それほど、第3章は興味深く好きでした。正直、ほかに出てきた小さなエピソード(特に上巻の)は、あってもなくてもいいような気はしました。とはいえ、それだとテーマ「日常の謎を小出し」ていく旅に合わないのですが。それが味わいでも苦味でもあります。恩田さん初心者な私ですが、まずは、「3月は深き紅の淵に」シリーズを読破していきたいと思います。


解説/川端裕人

素敵な言葉どもが記事の跡

似ているというのはおかしいことだ。だが、人間は、目の前の風景からなにかのイメージを見つけ出さずにはいられない。どこにいても誰かの顔を、自分の記憶の中のものを引っ張り出すことで安心しようとする。

節子が、子どもの頃、内気だったと聞いてもそんなに意外な気がしなかった。快活で社交的な人間には割とそういうタイプが多い。

列の最後尾を歩いていくのはなんと心が落ち着くのだろう。俺にはこのポジションがあっている。みんなの背中を見て、最後についていくこの位置が。敦彦のように先頭にたってみんなを率いていく人間ではないのだ。みんなの背中を見ている。誰も俺をみていない。それが俺のポジションなのだ。

自分のことを優しいと思ってる人間よりは、自分が優しくないと知ってる人間の方がずっと優しいと思う。

「神っていうのは習慣だなって思うんだ。教えられて、毎日接することによって初めて身につく。突然できるようになったり、最初からできたりはしない。だから、欧米人だって子どものときからしつこく刷り込みを続けるわけだ。習慣の中にしか神がいないことを知ってるのさ。逆に、習慣にでもしなきゃ、神の存在をしんじられないだろう。人間は飽きっぽく忘れやすいからな」

愛される者はいつも傲慢だ。愛する側が自分を削って愛を注いでいることに気づかない。人は好意には敏感だが、愛されていることには気づかない。その愛が深ければ深いほど、相手には届かない仕組みになっているのだ。その一方で、愛する側は孤独だ。愛するという行為に精いっぱいで、それ以外何も目に入らない。

関係が気まずくなったとき、男は口を開くことが苦痛になるが、女は沈黙が苦痛になるらしい。

「最近、考えちゃうだよな、正しいっていうのはいったいどういうことなんだろうって。正しいことは果たして良いことなんだろうか、って。そもそも正しいことと良いことがイコールじゃないってところが難しいんだよな」

真実はつまらないものだが、告白にはカタルシスがある。






最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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