小説の感想・レビューです。ネタバレあり。物凄く更新遅いです。ご了承ください。訪問ありがとうございます。
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ナラタージュ (角川文庫)ナラタージュ (角川文庫)
(2008/02)
島本 理生

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前書き
「もうこんなふうに曖昧な距離を続けることはできません」


彼は私が高校3年生の時、世界史の教師として赴任してきた。
初めて視線が合ったときは、背の高い人だなと感じた。
赴任してきた当時は、私と何度か廊下ですれ違ったが、彼は私とすれ違ったことなどまったく覚えていなかった。
よく話すようになったのは、私が高校に所属していた演劇部の顧問として顔を合わす機会が増えたからだ。

たしかに、わたしはまだ彼のことが好きだった。

今でも呼吸をするように思い出す。季節が変わるたびに一緒に歩いた風景や空気を、すれ違う男性に、彼と似た面影を探している。だが、二人がまた顔を合わせることはおそらく一生ないだろう。二人の人生はをあのときから完全に離れ、今では同じ道を見つけることは不可能に近い。

ただ、それは、壊れてしまうくらい愛したただ一人の人だった。


ジャンル・タグ 
正統派の切ない恋愛小説・重量感(中)・大学生と高校の先生・距離は近くても遠い気持ち・片想いがつなげる負の連鎖・生徒と先生

原点回帰で至高の一冊。内容は、日常にありふれた風景でいて、静かに激しくドラマチックで、静かに切ない小説でした。こんなに流暢な文章を読むと、作家さんの創作力に感嘆させられます。作家という職業はすごいなとつくづく思います。島本さんの文章力にはとてもセンスを感じます。ただ、この小説は世代を選ぶと思います。個人的には若い方におすすめします。小説は主観的なもので好き好きがあると思いますが、特に恋愛小説は、その傾向が強い気がします。、季節は熱い時期から寒い時期に移行していく頃(夏→冬○、冬→夏×)に読むとちょうどいいと思います。暖かい時期に読んで、肌寒い時期に読み終えるのが頃合いでしょう。島本さんの小説に今後も期待。

評価  
素敵 

感想ネタバレ↓
前書きを読めばある程度、なんとなく内容は想像できると思いますが、元高校生の工藤泉と、教師の葉山先生の届きそうで届かない切ないラブストーリー。テーマや設定が王道で、しかしながら、著者さんが若いので新鮮で若い人向けです。テーマだけ言えば、川上弘美さんの「センセイの鞄」を連想させますが、正直なところテーマは一緒でも全然違います。「センセイの鞄」の場合、ほのぼので、抽象的な世界観が演出しシックな小説ですが、「ナラタージュ」はリアリティやドラマチックを演出して派手さが強調されています。小説の派手さが大好物な私は、はまりました。もどかしいという表現が合うこの小説の恋愛はロマンがあってしたいようで、やっぱりしたくない恋愛ですね。傍から眺めてその空気観にときめいている方がいいです。

一人称は主人公、工藤泉の視点、心情しかなく、煩雑さがなく読みやすかったです。たまに会話文で、著者の社会観や雑学が反映されているところがちょこっと文章として違和感がありましたが、心理描写も多い方ではなく、恋愛小説としては読みやすい方でした。


<本文より>
「今さらじゃない、僕はいつだってそう思っている」
「だって私が別れを告げたときも、小野君と付き合っているって言ったときもあなたは平気そうにして」
「平気なわけないだろうっ」
初めて大きな声を出させ、反射的に息が止まった。
「ただ、小野君と一緒にいるほうが君は幸せだと思ったんだ。僕は、いつだって君が心配なんだ。苦しんだり傷ついたりしないで生きているかどうか。それが守れるなら僕の独占欲なんてどうでもいいし、執着をみせないことを薄情だととられてもかまわない。だけど、こんなふうに後から知らされるだけは嫌なんだよ」
私は何も言えなかった。目頭から頬を伝わって止まらぬ涙が熱かった。
「そんなこと言わないで。もう遅いよ、葉山先生」
「仕方ないんだ。僕は君の求めるものをなに一つ与えることが」
瞬間、頭にかっと血がのぼった。
「あなたはいつもそうやって自分が関われば相手を傷つくとか幸せにできないとか、そんなことばっかり言って、結局、自分が可愛いだけじゃないですか。何かを得るためにはなにかを切り捨てなきゃいけない。そんなの当然で、あなただけじゃない、みんなそうやって苦しんだり悩んだりしてるのに。それなのに変わることを怖がって、離れていてもあなたのことを想っている人間に気づきもしない。どれだけ一人で生きてるつもりなの?あなたは、まだ奥さんを愛しているでしょう。私を苦しめているものがあるとしたら、それはあなたがいつまで経っても同じ場所から出ようとしないことです」

読んでいるときは、さすが葉山先生だと思いつつも、きれいごとにも、聞こえてしまいます。先生の言っていることは。後出しすぎですよ。そうやってやきもきさせて。



全体的に、無駄のないストーリーで読んでいて素敵だったですが、エンディングを長くしすぎた感があって余韻が少なかったのが残念でした。葉山先生と決別した後は、その後の暮らしを書いてほしくなかったです。その後の生活は想像させてほしかったなと個人的な思いがあります。例えば、宮部さんの「火車」のようなエンディングみたいな、「わざと結末を書かない」終わり方はぐっとくるものがありますね。あの二人はどうなったのか、また会うことができたのか、泉はまた好きな男性をみつけることができたのか、想像を膨らませながら読後感を味わうのがたまらないです。

エンディングはプロローグの文章を生かすために、付け加えた感じしますね。あるいは、なんとか葉山先生と知り合いのカメラマンと泉が面会する状況をつくるために、つないだ文章という印象があります。それだったら、そのまま、  1年後~…カメラマンと食事することになりました。~ とか、5年後~なんちゃら~ など、カメラマンと会うまでの経緯を省略してもよかったんじゃないかなと思いました。

小野君と泉のすれ違いの関係もとても切なくてたまらないです。好きでも好きで思いを伝えて一生懸命になっても全然相手の瞳には映っていないことの、つき合って自分のものにしても、束縛して相手を振り向かせようとすればするほど、離れていてしまう相手の気持ちなんか、胸キュン。





素敵な言葉どもが記事の跡
子供の頃には母がよく焼いてくれたホットケーキを美味しく感じるのは味そのものよりも子供の頃の楽しさを食べているせいだと思った。

「自分を適当な人間だと思っているみたいだけど、本当は責任感が強くて完璧主義者だよ。そういう子はかならず最後まで大丈夫なふりをして思いつめるけど、死んでしまうくらい嫌な事なんて簡単にほうり出してしまってかまわないんだ。君よりも苦労してがんばっている人がいるんだから君もがんばれ、なんて言葉は無意味で、個人的な状況を踏まえずに相対化した幸福にはなんの意味もない。誰だって本当は自分の好きなことや明確な人生の目標に対してしか苦しんだり努力したりはできないものなのだから。君が本当に今の場所から離れたいと思ったとき、僕はそれを逃げているとは思わないよ」









最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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この記事へのコメント
どこか犠牲的なのが印象的
ナラタージュは何度も読んでしまう、島本さんの中では
一番好きな作品です!
何度読んだか分からないんですが、気付いたらかなり集中して
読んでるときもあるくらい。そして読了と・・・。
新作の「よだかの片想い」もイイ作品でした。

ネットでいろんな評価を読んでいたら、
http://www.birthday-energy.co.jp/
なんてところはセンスがないとか・・・。
才能がある方だけに、中身が良くてもタイトルが
いけてないとのこと。

中身は良かったんですけどね。
やっぱりほら、名は体を表すといいますし、
2013/05/21(火) 23:22 | URL | 壮太 #DvI991tw[ 編集]
Re: どこか犠牲的なのが印象的
壮太さんコメントありがとうございます。

島本さんの他の作品を読んだことがないので、私からなんともいえませんが、ナラタージュに関しては、私はセンスがないとは別に思いません。島本さんは割と、作品を読者から批判よくされたりするのを見ますが、結局は個人的主観なので、その人とセンスが違うだけで、全く気にすることではないと思います。私も例えば、恋愛小説の中では江國香織の作品など、個人的にはあまり面白いと思わなかったりします。

最近余裕がありませんで、他の作品は読む機会があれば、UPしたいですが、ほど遠いです。。。

2013/05/22(水) 09:24 | URL | リリ #-[ 編集]
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