小説の感想・レビューです。ネタバレあり。物凄く更新遅いです。ご了承ください。訪問ありがとうございます。
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天体議会(プラネット・ブルー) (河出文庫―BUNGEI Collection)天体議会(プラネット・ブルー) (河出文庫―BUNGEI Collection)
(1994/08)
長野 まゆみ

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前書き
<白鳥>が<天河>を翔ける九月も。
<少年>の持つ<水瓶>から零れる水を、<南の魚の口>が捕らえる十月も。
夜空には一等星が乏しい<三角座>の三等星が煌く十一月も。
<天馬>の二等星が天頂に煌いている双子座流星群の降る十二月も。
<仔犬>の一等星と天狼星を結んで南下した水平線すれすれにある<水先案内>を眺める一月も。

天体議会は開かれる。
「本日、議会招集。集合時刻は午后五時。場所はいつものとおり、時間厳守のこと。議長。印」

少年たちは夜空に夢を描く。
固体燃料をロケットに詰め、導火線へ。高く飛び立たせるために。
まだ見えぬ闇を、白煙を噴くアルミ二ウム青銅のロケットが突き進んでいく。夢を乗せて。
突如、打ち上げ花火のような鋭い音がする。発光は月夜の水辺のように碧く煌き、闇にしみ込んで消えた。

「どこへ行こう。」
「いつもどおりさ。」
「ぢゃあ、きまりだ。」
少年たちは並んで歩きだした。



ジャンル・タグ 
詩的なローファンタジー・未来風・重量感(小)・宝石のように風景描写の美しい物語・少年たちの友情と愛情と嫉妬・趣味は天体観測と鉱石集め

評価  
素敵 

情趣的でしっとりした世界観が魅力的な小説です。盛り上がりは少なめでしたが、世界観がとても美しいことでこの小説は愛されると思います。情景描写や風景描写がとても多く、風景描写の表現に凝っています。つまり物語ではなく、雰囲気、世界観ありきということも意味しています。その中でもストーリーで少年たちの純な心の葛藤が垣間見えます。SFな要素は薄く盛り込まれていますが、むしろ、この小説にはノスタルジックな思いにさせられます。ドラマチックな小説を読んだ後に読みたい小説です。劇的な物語に疲れたらこの「天体議会」をどうぞ。天体や鉱石が好きな人にもおすすめ。癒されます。


感想ネタバレ
12学級まで存在する学校に通う主人公・銅貨は、親友である水連を駅のプラットホームで待っています。二人が待ち合わせると、学校へ向かう途中で、満員電車の状況にうんざりし学校をさぼり、遊びに出かけます。彼らが向かうのは、「いつもの場所」。そこは彼らの暇を持て余す場所でもあり、放課後の遊び場であり、趣味を楽しむ場でもあります。その名も「鉱石倶楽部」。鉱石、岩石の標本、結晶、化石、貝類や昆虫の標本、貝殻、理化硝子などを売る店であり、注文もできる店台でもあります。鉱石倶楽部につき、店内に入ると、店番ではなく、見慣れない同じ制服をきた少年がいるのです。その少年は人形のようで、生身の人間とは思われず、銅貨と水連も立ちすくみます。見慣れない少年は笑みを浮かべ、話しかけてくるのです。そこから、奇妙な少年との出会いが、銅貨たちの心情を揺れ動かすこととなるのです。

SF要素は薄く、ほのぼの系の青春小説に近いです。SF好きというよりは、ヒューマン小説好きの方におすすめします。舞台は地球です。現実の地球とは全く別の世界。独自の社会構造が発達し、現実以上に発達している技術もあれば、むしろ劣っている分野もある世界です。

この小説を例えるなら、美術館で絵画を眺めている感覚に近いです。というのも、この小説が、(もしくは長野さんが)一番力を入れているのは、風景描写、状況描写であるため、「おもしろい小説を読む」というより「美しい小説を眺める」に近い感覚が個人的にはありました。


<本文より>
澄明で目の醒める碧霄、翠色の水平線、温んだ空気。まだ見ぬ光景を思いながら、ため息をついた。

ほとんど乗客のない地下鉄の車内で、銅貨と水連はお互いに鉱石や天体に強く興味を持っていることを確かめあった。摩擦音をたてる鉄輪はしだいに速く回転し、地下鉄は闇の中を突き抜けてゆく。暗い地下道にも信号燈があり、そのほか非常燈や方向洋燈など、ぽつぽつと点っている。漆黒ながら湿り気の漂う闇に滲む光は、緑柱石、黄玉、紅柘榴と様々だ。それらは深海に棲む魚の、奇妙に煌く斑のようでもあり、銅貨は地下鉄の窓を覗きこむたびに水族館か、潜水艇の内部にいる気分を味わった。

西の天にはほんのりと薔薇いろに染まった雲が浮かんでいた。刻々と色褪せ、見つめているあいだにも、消炭色にくすんでゆく。太陽は貨物駅の横に長い駅舎に隠れ、ただ残照だけが神々しく、輝いた。その輝きは、日の沈んだのちもまだしばらく雲を照らし、淡紅いろから錆紫へ変わる何層もの雲のしたで、発光する沈殿物のように残っていた。


上記のように、とても風景描写に色彩や石の名前、星座、惑星の名前をよく使い、とても世界観が美しいです。
セリフやストーリーの展開はもちろんありますが、何度も言っているように世界観、雰囲気を楽しむのが醍醐味です。また、少年たちの会話も現実感からはずして、純情な冒険心溢れる軽快なセリフが繰り返されます。少年たちの父や兄との関係性、同級生、天体議会の仲間との関係性に葛藤、嫉妬、心情の浮き沈みを描きます。それがまた、純情で世界観に美しさを描きます。個人的にとても好きな小説でした。長野さんの本はまた少し探してみたいと思います。そのうちまたブログにUPします。





素敵な言葉どもが記事の跡
机の上にあった偏光顕微鏡を覗いた。結晶が万華鏡のように紅玉や黄石英、緑柱石などの色に煌く。それは色硝子を嵌め込んだ薔薇窓のようでもあり、貝殻の中の真珠母のようでもある。結晶は様々な像をつくり、大を成し小を成し、凝縮し、ときには散らばって、ひとつの鉱物を形成するのである。それらの結晶が、微生物のように息づいてみえることもあった。石は何億何万という歳月を費やして成長し、形を変えてゆくいきものだ。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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この記事へのコメント
デカルトマニアはハイファンタジー
だから、ドップリ別世界に連れて行ってくれますよ。

21世紀に生きるぼくが図書室で見つけた金箔押し革装の古書
デカルコマニアには、亀甲文字で23世紀の奇妙な一族の不可思議な
物語が綴られていた。
いったい何故、どうやって!

書物の電子化が進んだ時代、本はどう読み継がれるのでしょうね。
結構創造力かき立てられます。

そして長野まゆみさんがもつ不思議な創造力の糧を
解説しているサイトまでありました。
http://www.birthday-energy.co.jp/ido_syukusaijitu.htm

しかし59歳以降で最高に評価されるみたいで、どんな
作品で評価を受けるのか、気になりますね。
2011/06/16(木) 00:21 | URL | 小伝馬町 #DvI991tw[ 編集]
Re: デカルトマニアはハイファンタジー
小伝馬町さん
コメントありがとうございます。
「デカルコマニア」っていう長野さんの作品を知らなかったので、最初コメントの意味がわからなかったですが、単行本として発売されているのですね。設定としてはSFチックでとても面白そうですね。長野さんの作品自体、「天体議会」が初めてだったので他の作品をよく知らないのですが、機会があれば、拝見してみたいですね。この本と「デカルコマニア」とが書かれた年代が違うので、作風の違いもたのしめそうですね。
2011/06/16(木) 08:29 | URL | リリ #-[ 編集]
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