小説の感想・レビューです。ネタバレあり。物凄く更新遅いです。ご了承ください。訪問ありがとうございます。
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麦の海に沈む果実 (講談社文庫)麦の海に沈む果実 (講談社文庫)
(2004/01/16)
恩田 陸

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前書き
彼女は不安に苛まれていた。
知らない男に連れられて進む車窓の外を見ると、辺り一面が灰色の湿原が広がっていた。
目に映る淋しい、うらびれたその風景にこの先にくる現実に灰色の気持ちにさせられる。
車のドアを開け、2月の終わりで雪の匂いと冷気がさあっと吹き上げる。
北のその湿原に近づいていくと、こんもりとした森に覆われ、人工的な山があることが分かってきた。

男は「青の丘」と呼んだ。
本当に、青かった。丘というよりも、山に近い。丘の周りは湿原に続く巨大な池になっていることが分かった。
―陸の孤島―湿原の中の要塞である。
彼女は空恐ろしさを覚え、同時に即視感を覚える。
あれが、これから、学園生活を送る場所だ。
世間から見放された「灰色の湿原」と「閉鎖的な青の丘」を見ると彼女を憂欝にさせる。
そしてまた、とても、とても彼女を郷愁の思いにさせる。


ジャンル・タグ 
ローファンタジー要素含んだ学園ミステリ・現代風・重量感(中)・不思議の国のアリス・鏡の国のアリス・学園の生活・学園の失踪事件・学園の秘密・学園の真実

評価  
最高  

「麦の海に沈む果実」シリーズ(それぞれの物語は個々別物ですが、キーワードがリンクしているシリーズ)。シリーズで最初によむべき小説(個人的にそう思います)。

感嘆しました。面白かったです。この小説のくくりは一般的(某書籍サイトなど)にファンタジーに分類されていますが、かなりミステリに比重を置いていますね。ミステリ小説と考えていいと思います。最初読んでいるときは、テーマがいまいちとらえどころがなかったです。読み進めた結果、例えるなら「魔法を使わない、日本版のハリーポッターのような学園世界で失踪事件が発生するミステリ」です。どこが良いかというと、物語の中でミステリの伏線の張り方が最高なのと、あいかわらず、心理描写、人物描写がうまいことです。キャラクターは適度にそれぞれ個性が立っていて、キャラクターのリアリティ感が好きですね。そしてなんといっても、オチが個人的、大好きでした。いやー、引き込まれました。


感想ネタバレ↓
「3月は深き紅の淵に」の小説のフレーズや、作中にでてくる言葉、名前が共通点のある小説です。話のつながったシリーズものではありません。

話のあらすじは、主人公、理瀬(中高校生ぐらい)が、とある日本の北灰色の湿原に浮かぶ「青の丘」にある学園・学校に転校してくる所から始まります。2月終わりに転入してきた理瀬は、本来、学園の規則により3月から転入されるのですが、例外的に転入を認めらます。それが生徒たちに好奇の眼差しの対象になり、学園から異質な存在として受け入れられます。というのも、生徒の異常な理瀬に対する目は学園はとても閉鎖的で独自の生活規則があり、その規則の裏にある不可解な学園の謎に隠されているのです。謎が解き明かされていく時、生徒の失踪事件や殺人事件というものに発展していくのです。徐々に不気味さを徹底的な違和感を感じ始めて、それが明るみになるとき、理瀬はある思いを閃くのです。

最初の読みはじめからそうなんですが、具体的な設定、地名、学園のシステム、主人公の生い立ち等が語られないので、ファンタジーなのか、ミステリなのかわからず、目隠し状態な不安的な読書感でした。ただ、事実をなかなか語らないような工作がなされ伏線が何度もなされているので、あきらかにミステリです。現実に近いようでいて、現実にある学校という組織のスタイル、学校生活のスタイルとは異質でそういう意味だけファンタジーと呼べるでしょう。80~90%方、ミステリですね。

伏線の張り方はとても分かりやすいですが、ネタバレは後半までぎりぎりまで持っていくので、最後の終わりまで緊張感を保ちながら、ストーリーが進められるところがとてもよかったです。そして最後のオチも、期待していたオチと違っていて、良い意味で裏切られて読んだ甲斐があったなぁと読後感もすっきりした気持ちになれました。残るものは少ないと思います。

例えば、私が小説を書いて、結末をどうするか考えた時、絶対この小説の結末のようには終われないと思います。わたしなら、とても悲しいシリアスな結末を用意するか、清々しいさわやかなハッピーエンドを用意しようと考えると思います。どちらも、読者側に共感を得られるような安全なくじを狙おうとすると思います。この小説の場合、主人公にとってはとても順風満帆なハッピーエンドですが、読者側からしてみればバットエンドなのです。恩田さんはあえて火に水ではなく、油を注いでいるのです。それはとてもリスクを伴っていて、感嘆と反感の紙一重だなと思いました。それのチャレンジャーさがとても素晴らしいです。そしてこの作品は面白いなぁって思い、とてもお勧めです。

シリーズに関しては、「麦の海に沈む果実」と「3月は深き紅の淵に」には共通した点があります。

どちらも「3月は深き紅の淵に」という本が存在します。世界観は全く別物です。前者の場合、学園の歴史について語られた本(別な見方をすると日記)。後者は出版されていない非公式の幻の小説です。

理瀬、黎二、憂理、聖など登場人物が「3月は深き紅の淵に」の第4章「回転木馬」に出てきます。「3月は深き紅の淵に」のこの章がもとになって「麦の海に沈む果実」ができたのかもしれません。「回転木馬」は、「麦の海に沈む果実」の縮小版みたいな物語です。完全に同じ話でもなく違う話でもなく、物語の設定と結末、役割が違っています。見比べてみると面白いと思います。例えば、校長が教頭になっています。回転木馬の章は3種類の脈絡の違う文章(恩田さんの小説に対する考案・理瀬の物語・他の物語)が順番にかかれていて、読みにくいです。初見ならこの4章は読みづらくてあまり面白いと思えないでしょう。最初に、「麦の海に沈む果実」を読んでから次に「3月は深き紅の淵に」の第4章「回転木馬」は読むのがベストでしょう。

憂理という登場人物に関しては、「黒と茶の幻想」にも出てきます。キャラ性の違いに面白さを感じます。


素敵な言葉どもが記事の跡

単なる事故に意味を求めたって誰も救われやしない

理瀬ちゃんは、自分が可愛いってことわかってるからだよ。何もしなくてもみんなが可愛いって言ってくれる自信があるから、わざと男の子みたいな格好してるんだよ。あの時、二重の衝撃を受けた。そんなふうに見られているというショックと、自分の心の底に実はそういう感情があるのかもしれないと気づいたショックだ。

コサージュをつけ鏡の中に完璧な「女の子」が完成すると、理瀬はなんとなく憂鬱になった。彼は喜ぶのだろう。彼は、理瀬を女の子らし女の子として扱っている。女の子は作られるのだ。そのことが、時に、彼女を傷つけ、時に虚しさを感じさせていることに彼は気づかない。彼の視線に、憎しみを抱く時すらあるということが、彼には理解できないだろう。

白い薔薇の香りが強く漂っている。
存在しなくなれば、忘れ去られる。
甘い風がテーブルの上を舞い、池に向かって流れていく。
そう、死んでしまえば存在もなくなり、肉体も消滅し、情念も希望も消えてしまう。やがて、人々の記憶からも失せ、二度目の死を迎える。

男は、恋人を刺すのに女は新しい女の方を刺すよね。どうしてだろ。
男は恋人に裏切られたと思うから恋人をさすのよ。女は恋人を取られたと思うから新しい女を刺すの。

光が強いってことは、濃い影ができるってことさ。

夏至の日。いちばん太陽の存在の長い日。次の日から少しずつ日は短くなっていく。頂点に立った時に感じる滅びの予感。



最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

コメントくれた方ありがとうございます。つたない文章読んで頂いて感謝です。

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