小説の感想・レビューです。ネタバレあり。物凄く更新遅いです。ご了承ください。訪問ありがとうございます。
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黄昏の百合の骨 (講談社文庫)黄昏の百合の骨 (講談社文庫)
(2007/04/13)
恩田 陸

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前書き
この世は思惑にまみれている。人格の違う人物が二人以上いれば彼らの間でそれぞれ一つの物事に2通りの考えが浮かぶものである。それは似通っていて共通する考えであったり、全く正反対の考えであったり。

例えば、この家。
敷地はそれなりに大きく建てられてから何十年も経っている古い洋館である。おばあさんが住んでおり、彼女の娘、性格もルックスも違う姉妹が住んでいる。彼女らには夫がいたが、離散していたり、あるいは他界している。常に女だけが姿を見せる屋敷である。その屋敷を覆い尽くすように百合の花が庭に咲き誇っている。その強い香りが鼻がつく。いい香りというよりはきつい匂いである。その異様な雰囲気に近隣の家々とは一線を隔している。そしてなにより、おばあさんが家にいない日がない。常に洋館の体裁を成した家を見張っている。なにかに取りつかれたように家を離れない。そして定められたように毎日、百合を欠かさず活けている。

一見、偏屈なだけでなんでもないようなことが、なにか特別な意味を込めていたりする。意味のないように思える行動がとても重要だったりする。考えてほしい。

そう、これはミステリだ。なにかしらの思惑があるのだ。人が関わる時、思惑が交差しないミステリなどない。
彼女らの行動はなにか意味があるのだ。そう、この家にはなにかミステリが隠されているのだ。
物語がはじまりそうだ。
幕をあけるとしよう。


ジャンル・タグ 
祖母の家にまつわるミステリ・現代風・重量感(中)・「魔女の家」と周囲の軽蔑・一族の秘密事・物静かな姉と豪奢な妹・小動物の死と夫たちの死・長崎の西坂の丘・日本二十六聖人殉教地

評価  
最高  



「麦の海に沈む果実」シリーズ(それぞれの物語は個々別物ですが、キーワードがリンクしているシリーズ)。シリーズで最後によむべき小説(個人的にそう思います)。
「麦の海に沈む果実」の完全な続編です。ですので、「麦の海に沈む果実」を先に読むのがベストです。前作のように設定のスケールは大きくはなく、主人公の住む家と家族でおきる古風なミステリとしてシンプルに仕上がっています。前作より、ファンタジー感が減り、現実味、リアリティがある内容でした。この作品単独で読むこともありだと思います。他の3作品に比べ、癖がなくとても読みやすいです。季節は10月~12月です。秋や冬に読むのがベストでしょう。ミステリ好きは読みましょう。また、表紙が暗く、タイトルも暗いタイトルですが決してホラーではありません。この小説は怖くはないので、ホラー的要素があると思った人は別の本を探しましょう。内容が良いだけに、この表紙のセンスに残念です。の表紙は内容にそぐわないです。テーマ、内容は派手さはないですが、伏線は多く、謎は後半まで引っ張り、王道パターンです。ワクワクを後半まで、恩田さんありがとうございます。この作品はシンプルな分、深みは他の作品が勝ってると思います。


感想ネタバレ↓



今回は「麦の海に沈む果実」の主人公、理瀬が、「青の丘の学園」を離れてからの2年と数か月?後の話です。長崎に住む理瀬の祖母が死去し、祖母の遺言にあった「自分が死んでも、水野理瀬が半年以上ここに住まない限り家を処分してはならない」という条件に従い、留学先のイギリスから日本に。遺言に従い、半年、理瀬が祖母の家で義理の姉妹の三人で暮らすこととなります。祖母の家に理瀬が住まなければいけない理由とはなんなのか。義姉妹が理瀬を詮索する意図は。そもそも、祖母はなぜ、亡くなっていたのか。魔女の家の近隣に住む人たちの視線。理瀬の同級生の失踪事件。祖母の一回忌を迎え、従兄弟である亘と稔が帰省し、物語は展開します。祖母の隠していた秘密とは。理瀬一族の持つ裏世界が垣間見えます。

文章に実際に存在する建物の名前を告げているので(グラバー邸・・・文久3年(1863年))に建てられた日本で最も古い木造洋風建築物)、物語の舞台が長崎だと分かります。それ以外にも、長崎であることを示す文章がちらほらできてきます。「麦の海に沈む果実」で舞台がはっきりと言及されていません。ただ、本作で「理瀬の父親は北海道にいる」という亘の発言があるので、「青の丘」は北海道のどこかです。そしてイギリスに留学2年を経て長崎の紫苑という高校に10月に編入してきます。言及されてませんが、理瀬は高校三年生だと思います。補足:隣の高校はS高校。

続編の割には、物語の設定スタンスが変化していることがよくわかります。上記のこともそうですし、ファンタジー性は薄く、ミステリー1本で通しています。こちらの方が設定をはっきり明示している分、神秘さがないと思いました。またこの小説は時代錯誤は気にしなくていけそうな物語ですね。キーワードシリーズのなかでは黒の茶の幻想以外は時代錯誤しなくて済むのではないでしょうか。



「こええよな、神様って。あんな沢山のにんげんがじぶんのために死んでいるのに、ずっと知らんぷりしているだろ?俺は分からないよ。殉教とかさ。なんで何もしてくれない奴のために死ねるんだろう。死ぬどころか、殺し合いまでしてさ。世界中であいつのために毎日誰かが誰かをころしているんだろ?」
「そうね、惚れた弱みってやつじゃないの?振り向いてくれなければくれないほど、余計に思いは募るし、相手に対する思い込みは大きくなる」「確かに物凄くたくさんのひとは死んでるけど、同じくらい神様で生きていける人もいるんじゃないかなあ」要するに、善であれ悪であれ、人間は自分たちを高みから見下ろす絶対的作らずにはいられないのだ。その絶対的な物のために、誰かを殺すことも救うことも、理瀬には大して変わらないように思える。その絶対的な物のために生きるという点ではどちらも同じだ。


この文章はほぼこの小説の本筋をついている気がします。第1章の前半でこの文章を出して手掛かりを与えてくれるところが秀逸です。ただ、急にこの発言をしたのは不自然ですし、かつ高校生の発言としても不自然だし(大人でさえこのようなやりとりはなかなか出来ない)、達観しすぎていると思いました。とはいえ理瀬は卓越している存在であるし、勝雪も人知れず先見の明のある子だからいえることかもしれないです。。。しかし、恩田さんがこの物語の背景に選んだ場所、長崎とはキリシタンと親密な繋がりを持った土地なのです。

例えば、Ⅳ章で出てくる「二十六聖人の碑」。長崎駅前で路面電車を下りて急坂を上ると西坂公園に出ます。そこには舟越保武作の二十六聖人のブロンズ像がはめこまれた巨大な殉教碑があるのです。1587年、豊臣秀吉は伴天連追放令を発布し、長崎を公領としました。当然、キリシタンを排除するためです。そして、長崎の西坂の丘で26人の宣教師や信者が処刑されたのです。

先ほどの会話は、土地特有の歴史を背景とした文章なのです。それを地元である勝雪、引っ越してきた理瀬はそのキリシタンの遺跡を背景に哲学的な話をしていたのです。この長崎とキリシタンについて詳しい小説は、加賀乙彦さんの「高山右近」等を読んでみるといいのではないでしょうか。そこには、物語があり、歴史も紡がれています。

「麦の海」同様、終始、理瀬視点で、心情描写も理瀬です。前作の記憶があいまいですが、この物語に関しては、心理描写は恩田さんにしては控えめで、ミステリの正体や行動、会話に焦点が合ったように思います。

理瀬が長崎の祖母の家に来た理由とはなんだったのでしょうか。すべて読み終わり、思い返しても、理瀬が祖母の家に来る必要があったのかと疑問符がつきます。前半から語られていたジュピター。確実にこれを見てもらうないしは、所有してもらうことに焦点があたりますが。あの地下室がなぜ、理瀬に必要なのか、です。要は『誰かを「処分」するときに使え』という祖母からの遺産なのか、それとも、理瀬の父親が言っていた通り、今後のビジネス(広い意味で)で生き抜いていくための一つのカードとして、政治家をゆする云々、の遺産だったのでしょうか。そこは恩田さんの「あなたの想像にお任せ」ということでしょうか。ともかくジュピターを義姉妹、その他勢力の手に渡るのを防ぐために、用意された理瀬一族なのでしょうね。結末をみると。続編があれば、なにか繋がる理由があるかもしれません。この小説のみではここまで。

それにしても、やはり、最後の章でも隠し玉を用意していましたね。「麦の海」といい、「黄昏の百合」といい、サイコパスチックなキャラができますね。直接は関係ないですが、これもいわゆる、理瀬、稔などの裏の世界にすむ人たちだから遭遇するを一場面なのでしょうか。最後まで、ドラマチックを忘れない恩田さんには、感嘆です。続編があればぜひ読んでみたいものです。

※疑問点:祖母や祖母の名前は明かしていないのに、梨耶子の旦那の名前は固有名詞で文章にしている所。この辺は、恩田さんの中ではあまり意味がないようにも思いますが。個人的解釈は祖母、父親の名前が出てこないのは、その後、物語が続いた場合の伏線に念のためとっといているのだと思います。よく聞き知った人物の名前が父親の名前だったとか。なので、
物語の重要人物ではないキャラクターに名前をつけようが、つけまいが。。。ということでしょうか。まぁ、この議論こそ、どうでもいいのですが。。。

理瀬・・・祖母(その前夫)の子ども(次男か三男か等は不明。青の丘の校長)の娘の一人。
梨耶子・・・祖父とその前妻の子ども(妹)祖母の継子
梨南子・・・祖父とその前妻の子ども(姉)祖母の継子
亘・・・祖母(その前夫)の長男の子ども。稔の弟。理瀬の従兄弟。亘は稔のことを、兄貴とか、稔と呼ぶ。
稔・・・祖母(その前夫)の長男の子ども。亘の兄。理瀬の従兄弟。


素敵な言葉どもが記事の跡

「見た目は確かに可愛いし、優しそうな雰囲気があるから、男が夢中になるの分かるけど、あいつ、ひどいわがままだし、人の気持ちなんか全然分からないもん」勝雪の観察眼は確かだと思った。朋子は可愛い女の子が持っている残酷さを当然のごとく行使するタイプだった。悪い子ではないし、頭もいい。女どうしに必要なバランス感覚には長けている、。きっと大切に育てられてきた上に、小さいころから男からちやほやされてきたのだろう」

その口の軽さと露悪趣味は、きっとあんたの寿命を縮めるぜ。昔から、秘密を早々に暴露した登場人物は、さっさと消されるものだからな。

善など悪の上澄みの一すくい。悪の魅力に比べれば、早朝の儚い霧のようなもの。

嫉妬と憎悪で罵った瞳も、怨嗟と共に殴りかかり血をこすりつけた手も、愛らしい無垢な少女のままそこにある。
理瀬はにこやかに相槌を打ちながらも、心のどこかで空恐ろしい心地がした。こういう、自覚していない悪というのはどうなのだろう。彼女の底には、あたしなどにも及びつかぬ、深く広い悪の沼が広がっているのではないか。そんな沼には、あたしごときも飲み込まれてしまうのではないか-
―略―
幸福というのは、なんとグロテスクなものだろう。



最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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