小説の感想・レビューです。ネタバレあり。物凄く更新遅いです。ご了承ください。訪問ありがとうございます。
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分身 (集英社文庫)分身 (集英社文庫)
(1996/09)
東野 圭吾

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前書き
鞠子と双葉、互いにまったく違う人生を歩んでいるふたりの女性。

鞠子は大学教授を父にもつ温厚な女性であるが、かたや、双葉は看護師のシングルマザーにある母の元で育った勝ち気な女性である。鞠子は母が自分に対して接する態度に不審な気持ちを抱いていた。そんなある日、突然の母の死。それによって変わる鞠子の運命。

一方バンド活動をしている双葉の念願のテレビ出演を果たす。しかし、テレビ出演後の双葉の母の涙。それはなにを物語るのか。家に訪ねてくる見知らぬ男、大学で双葉の身元を知ろうとする人、母の様子変化にバンド活動にも身が入らない双葉。そんな中、母は交通事故に。

物語は二人の女性を中心に動き出す。


ジャンル・タグ 
サスペンス・現代・重量感(中)・生化・学医学

サスペンス好きにはたまらない作品。話の流れも上々。


評価
 
素敵 

感想ネタバレ↓
物語の展開が早く、話の流れがスムーズで凄く読みやすい。それはなぜなのか考えて見ると、章ごとに発見があるからだと思います。事件の真相に対して新たな発見が少なくても一つは章の中に盛り込まれています。真相を解き明かすキーワードがいくつかあって、話が進むとまた新しいキーワードがふえます。それがキーワード同士をリンクさせる、のりしろの役割を果たしていたり飽きさせない工夫がうれしかったです。

藤村「堅苦しい挨拶は抜きにしましょう。食欲の妨げになる。しかしそれにしても」
   彼は瞬きしながら、あたしの顔や全身を眺めた。
   「素晴らしい。素晴らしい。よくぞここまで...」
   その視線の強さに、あたしは思わず少し身をひくと、「いや、失礼」と彼は謝った。

「分身」の面白さは、ある意味悪役の考え方とそれに伴う行動にあると思います。読んだ人(私だけかも)がなにか体の中で大量の虫が這いつきまわっているような気持ち悪い、ざわざわ感をこの小説では感じるのではないでしょうか。その黒さはある意味この小説を面白く引き立てる役割を果たしています。

鞠子、双葉それぞれ2人が自分の意志で考え決断してきたものが、それは自分の意志なのではなく、元々決められたもの、意図されたものだったような不気味な展開にぞっとさせられます。
そして記者の脇坂が大学教授の藤村に関するまだ裏に隠れている影を指摘するとき、それは不気味に光り、より積み重なる不気味さに、ここで面白さが沸きあがってきます。

ストーリーの中には、隠れたテーマを発見できます。
下条の発言に「女の子が大学に行くっていっても、遊びだとかアバンチュールが目的の場合が、やっぱり多いのよね。こんなに女性の社会進出が騒がれているけど、相変わらず、女子大学生をやめたら人生が終わっちゃったみたいな気になる子が大勢いるわ。そしてそんな子たちが、あたしたちの足を引っ張っている。あたしも、女だっていうだけでずいぶん損をしてきた。今だってそう。」と言っています。
アバンチュールか、死語だなw

現代社会(本が出版された頃の社会?) への問題提起みたいなもの、というよりも社会への忠告がさりげなくなされています。
実際に足を引っ張っている人はいるかどうかは別として、現在でも女性がビジネスにおいて損をする場面は多いと思います。例えば、小説の中でも取り上げられていた育児の問題。こどもを産むのは女性の役目で男性にはつとまらない。仕事をしている女性にとってこどもを産むとなれば仕事を休み、出産のために時間をさかなければならない。ある一側面をみると会社には育児休暇への福利厚生のしくみが整っていなく、または育児休暇法を導入していても実際に使うシステムとして成り立っていないため、仕事をやめたくなくないのに、仕事をやめる葉目になるかもしれない。「分身」は現状を風刺している。この小説には著者の女性の社会参画への考えがさりげなく入っている。いまとなっては二番煎じのテーマであるが、時代背景を的確に匂わしている感じが個人的に好きでした。

問題提起はクローン技術についても及んでいます。むしろこれがメインテーマでしょう。これも今となっては古いネタで、さんざんメディアなどゴシップネタで騒がれた事柄だと思います。この小説の話にあるように自然科学に政治などの社会的介入が入ってくることは歴史上においてよくあることである。少し脱線しますが、例えば、19世紀、フランシス・ゴードンの著書「遺伝的天才」の中で優生学というものが提唱されています。遺伝学や進化生物学の自然科学からできた思想です。優生思想とは、簡単にいえば肉体的に精神的に劣性な遺伝子の人間を淘汰し優秀な遺伝子の人間のみを残して、万能な人種をつくろうという社会哲学です。ナチスドイツでも、流行ったようです。詳細には発言している人の価値判断やイデオロギーによって解釈が変わってきます。しかし、仮にそうだとしても倫理的に完全にアウトな考え方です。病弱な人や、知能が劣っている人を殺すかあるいは、断種して子供を残さないようにするということです。
小説の悪役たちの考え方はある意味この優生学に通ずるとこがあるなぁと思いました、というよりも読んで優生学のことが頭に浮かびました。正義という言葉をふりかざして、正義という言葉を汚しているような気がします。

話は変わりますが、物語の中にクロロホルムをつかって意識が飛んだとありますが、実際にはクロロホルムをしみこませたハンカチなどで口や鼻を押さえた程度では気絶させられません。薬品に詳しいひとなら既知だと思います。諸事情により実際に私も何度か数時間嗅いだ経験がありますが、化学薬品の独特の臭さがあって、まぁまぁくさいですが、意識を失うことは一回もありませんでした。

後半の場面で、下条は鞠子のことを実験結果という表現を使っています。下条は研究員である。実際の理系の研究者に知人、知り合いのことを実験結果と口走る人がいるでしょうか。私は理系学者と関わって来たことがありますが、そこまで倫理観、モラルが落ちぶれちゃいないと考えています。私が知る限り、みな、案外普通なのです。とにかく下条はあやまるべきです。人間として生まれた彼女を実験結果といったことに。


素敵な言葉どもが記事の跡

私はテーブルのうえのアルバムに改めて目を落とした。
どの写真でも、父は生き生きとしている。
今とは正反対だ。
まるでこの時代に、青春にすべてを置いてきたみたいに。






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