小説の感想・レビューです。ネタバレあり。物凄く更新遅いです。ご了承ください。訪問ありがとうございます。
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文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)
(1998/09)
京極 夏彦

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前書き
「この世には不思議なことなんて何もない」

たぶん、そうなんだろうと思う。ふたをあけてみればなんて事はない、ごくあたり前の事柄なのだ。
よくよく考えれば、不思議でもなんでもない。
そんなことを誰も彼もが「不思議だ、祟りだ、呪いだ」という。

私だってそんなこと、これっぽっちも不思議だなんて思ってもいない。
じゃあ、なんで私はこんなに寒気がするんだろう。こんなにも分かりきった事なのに。

皆が、不思議だ、不思議だと言ううちにどんどん不思議な気持ちがしてきたんだ。
ああ、この雑誌にも怪奇だの、呪いだの、神懸りだの、書かれている。
うーん、やっぱり、私等には到底、測りきれない不思議なことであるのかもしれない。

「ああ、もうー、不思議でも何でもないはずなのにぃ!!」
と私はすでに不思議な気持ちを受け入れていた。


ジャンル・タグ 
ホラーチックな推理ミステリ・昭和初期・重量感(大)・産科医院の空寒い宿命・自己欺瞞・一途な恋文が作り出す擦れ違い・はかない母の子どもへの思い

百鬼夜行シリーズ(京極堂シリーズ)の第1弾。ひさしぶりに読みました。内容をほとんど忘れていたので、新鮮な気持ちで物語を楽しめました。こんな冬の時期に読むべきではないですねw 

文章が硬めです。分量が多いです。はじめて読む人には取っ付きにくいかもしれないです。ホラーチックです。トリックとか推理が巧妙だとか、そういうことではありません。ただ、人間の卑しい思い、愛しい思い、うらやましく思うこと、そういう感情達が巧妙というだけです。汗が出てしまう真夏に読みましょう。この本を読んで涼しくなりましょう。そこにはごく当たり前な普通の非日常が待っています。

不思議なことなんてないです、ここには物語があるだけです。※ちょいグロが含まれています。

評価  
素敵 

感想ネタバレ↓
実は、「姑獲鳥の夏」を読もうとしたわけではなく、百鬼夜行シリーズの先の巻を読もうと思っていたんですが、内容もほぼ忘れているし、この際、内容を最初から把握して、この先の本を読む事に決めました。それにしても、この本はあいかわらず疲れますね。サイコロ本で分厚くて読みにくいし、表紙はダサいし、内容は濃くて、はじめて読む人には取っ付きにくいかもしれないですね。文体は古風で、文章は正統派、硬派、合理的で論理的。

でもそんな理詰めで内容の濃いこの小説が好きです。中でも、京極堂と関口の議論の辺りが好きですね。怪奇現象、心霊現象といったオカルトな観念を合理的に、当たり前のこととして論破していく。それが心地よかったです。「なるほどな」と納得してみたり感心したり、「ほんとにそうなのか」と疑問に思ったり、「それは一個人の思想だ」と思ったりしました。深かったですね。

そして、この議論や会話のかけ合いが好きなのは、議論のかけ合いが不自然じゃないからです。リアリティがあるというか、なんというか、「ありそう」な会話なのです。その「ありそう」が私は一番重要視していることでもあります。例えば、小説は小説のでたらめを楽しむという意見をどこかで見かけましたが、それだけでは私は納得できません。

いくら、小説の楽しみが奇想天外な、ドラマチックな展開が醍醐味、そこに起因しているからだとしてもです。それは登場人物のキャラクターや世界観の設定制限の範囲内で、自由に奇想天外な展開をくり広げるから面白いと思うのです。状況設定の範囲を飛び越えたでたらめなど私は求めていないのです。単に自由に幅をきかせたでたらめなどいらないのです。それは、設定の中に矛盾を作り出し、面白くないだけです。そういう意味では、

今回の小説は設定制限の中で、最大限にありそうなでたらめを発揮しています。



個人的に一番、感情移入して切ないなぁと思った場面があります。原澤と木場との会話のシーンです。貧乏な原澤夫妻が出産で久遠寺医院で妻をあずけ、その間、夫は一心不乱に働き、出産の資金を貯めます。しかし、いつまでたっても病院の方から出産の件で音沙汰がないので様子を見に行くと、病院側から死産といわれてしまいます。勝手に子どもを火葬したという事実を知らされます(下記)。

本文より
「中にゃあ骨だか石だか解らねえもんが何粒か入ってるだけだ。あんなもん貰って、お前の子供だっていわれたって、俺は納得できねえ。勝手に火葬になんてしやがって、壺に入ってる分あり難いが、蓋を開けちまったら、あんなもんゴミじゃねえか」
「それで、お前さん何だって訴えを退けたんだ?」
「女房がね。もういいっていったんだ。もう忘れよう、やり直そうってね」

「でもね、本当は、あいつは、あいつは自分の子供、金で売りやがったんだ!」

「俺が警察に行って、訴え取り消しを申し出た翌日、あいつは姿を消した。やり直すってえのは、一人でやり直すって意味だったんだ。後で解ったことだが、俺の留守中に久遠寺の使いが何度も来ていたらしい。あいつは金貰って、手を打ったんだ。俺の子供を百万円で売りやがったんだよう!」

原澤は髭面を歪ませてぼろぼろ涙を零した。

「また百万円か。まあ心が動く額ではあるな」

「黙れ!いくらつまれたって子供に替えられるかい!俺の、俺の子供だぞ!」


そうだよなぁ、うん。
久遠寺の女達の結末にも壮絶なはかなさ、切なさを漂わせ、なんとも言えない気持ちにさせましたが、こっちの方がなんとも共感しやすく身近な悲しさを漂わせていていました。

※まだ、記事を付け加えるかもしれません。

素敵な言葉どもが記事の跡
クラマックス、まったくストーリーに関わっていない、かつ、事件の状況、悲惨さを知らない関口の妻が事件解決後に、まだ煮え切らない夫に、久しぶりに会って声をかけるシーン

「失礼するってどこへ行くんだい?雪絵さんはこっちに来るんだぜ。亭主が入れ違いに家に戻るのも妙な案配じゃないか」

まだ、会いたくない。
まだ日常に戻れない。
それが連続しているのだとしても、私にはもう少し時間がいる。もう少し非日常を―。

そして私は、坂の七合目で軽いめまいを起こした。
ゆらり、と揺れて前のめりに倒れかける。目を前方に転じると、そこに見覚えのある柄の着物が見えた。ゆっくり視線を上げると、妻が立っていた。
妻は私が姿勢を立て直すのに手を貸して、ひとこと、

「お疲れ様」

といった。





最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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