小説の感想・レビューです。ネタバレあり。物凄く更新遅いです。ご了承ください。訪問ありがとうございます。
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プリズンホテル〈1〉夏 (集英社文庫)プリズンホテル〈1〉夏 (集英社文庫)
(2001/06)
浅田 次郎

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前書き
「上の者が白いと言やあ、黒カラスも白いのがあっしらの渡世です。支配人をないがしろにすれァ、指の一本や二本とぶのァ当りめえのこって」

番頭は支配人に言いきかせるように呟いた。
 

ジャンル・タグ 
ヒューマンコメディ・昭和・重量感(中)・ヤクザと任侠の狭間・ダサいかっこよさ・かっこよさに隠れた笑い・第一印象に隠れた逆説・笑いと感動の紙一重

どうですか、この本読みたいとあまり思いませんよね。ぱっと見、スルーしたくなります。

例えば、こう思いませんか。

んー。なんだ、この表紙のこの花。なんかすごく微妙。プリズンホテル?いかにも駄作。英語で書けばいいのに。アマゾンで内容をちらっと見たけど、傑作コメディ?あーあ、私そういうの、得意じゃないからw そういうの、冷めちゃうんだよね。しかも結構前に出てるのに、あまり売れてなそう。ないでしょw まぁ、たまたま図書館で見かけたから、一応最初のさわりだけ読んだけど、やっぱりな。何この主人公なんかむかつく。なんかめっちゃ、昭和臭いし。全然つまんないじゃん。

なんてこと、思ってるんですよね。どうぞ、期待しないで見てください。わかりますよ、「外見にだまされている」っていうことが。※官能的な表現が含まれています。

評価  
最高 

感想ネタバレ↓

話の内容を簡単に説明すると、極道の世界を描いた小説で売れ子の主人公(きっと主人公)がいます。父親の七回忌に唯一の親戚の叔父、通称、仲オジと居合わせるところから始まります。仲オジの話によると、最近クラウンホテルという企業グループから一ホテルのオーナーの権限をもらって、その祝いにホテルに主人公も来いという話でした。しかし、小説家にとっては、全然、うれしい話でも、喜ばしい話でもありません。それ以上に、仲オジとも、話もしたくないほど、敬遠していました。というのも、仲オジは、任侠重んじる極道の道を歩んでいる人だったからです。しかしながら、小説家は、取材をかねて、ネタを得るため仲オジの経営するホテルに向かいます。そこから、連続TV小説ドラマにあるようなドタバタ劇が始まるのです。

実際、主人公をなんだこいつと思いました。私はそうでした。しかも、最初、陰険な雰囲気漂わせていかにもつまんなそうだなと思いました。ただ、私は感情に問いかけてくるタイプの感動場面にこと弱いです。弱い部分を滅多刺しにされると、痛くて最後には泣いてします。今回があいにくそうです。クライマックスが来るまでは「支配人挨拶のシーンや、カラオケのシーンが山場で、幽霊のくだりで若干気持ちがだれてきて、これは★4の素敵だな」などとあたかも評論家になったように上から目線で高をくくっていました。

しかし、詳しくは言いませんが最後の、ファックスのシーンで泣きました。本で読んでいるのにまざまざと、私の目を通して、視覚を使ってその場面を見ているように映像化されて、小説家とある女性の会話のやり合いに泣きました。そのくだりは序盤で小説家が清子と部屋にいる時の文章を思い出させ、今読んでいる文章と、序盤の伏線が張られた文章が同時に復唱されると、
(´;ω;`)ブワッと。そのあとの仲オジ。序盤の伏線が効きました。

上記で、小説家を(きっと、主人公)といったのは、場面ごとに、一人称が変わるからです。場面によって主人公が別の旅行客だったり、新しく転属された支配人だったり、左遷された料理人だったりします。別の作品でいうと、伊坂さんのラッシュライフのような主人公が何人かいるようなスタイルです。そういう意味では、ラッシュライフの重要な人物である黒澤役回りが、「仲オジ」のようなものですね。核となる人物です。あるいは、浅田さんの作品でいう壬生義士伝の主人公のような立ち回りで、仲オジは基本、人の話のなかで出てくるだけであまりメインで出演しません。たまにでてきて、効果を発揮します。

一番の見どころはギャップです。やくざで怖い人なのに、どこか方向性がずれていて、その上実直まじめなので、彼らは普通の人には素っ頓狂な行動、言動をしてるように見える、つまりコントにみえるのです。仁義、人情と彼らがいえば、私達読者はあたかも、それがボケのように感じてしまって、電車の中にいたら、表情が変わらないように息を殺さなくてはいけなくなるのです。例えば、やくざもんの黒田が自己啓発の師をバイブルにしてるのはギャップのなにものでもない。ただその著者を読み知ってる人しかまったく意味がわからないからボケとして成立はしていませんが。

考えてみると、こういうタイプの小説は普段あまり目につきませんね。大抵私達は、ミステリ、サスペンスやファンタジーあるいは恋愛小説に目がいって、こういう笑いを取り入れた小説は手にとりませんね。小説に笑いだと、TVの映像のような視覚的な要素、場面の間合い等が欠落していて、すべて文字に依存しなればいけないから本を売る側も買う側も取っ付きにくいのかなと思ってしまいます。ただ単に私が他の作品を知らないだけかもしれませんが。

また、笑いだけではなく、平成初期のバブル期末の人々の生活の影の部分も風刺しています。その頃、人々の日常にあったジレンマ、幸か不幸か舞い降りた境遇がリアルで切なくて、笑いの狙いすぎを軽減してくれる気がしました。それは思わず、「あるある」といいたくなるような、地の文で語られるキャラクター達の考え。彼らが繰り出す言動、行動はめちゃくちゃなのにそう思えてしまいます。高度成長期にどっぷり浸った世代には特に共感できるのではないでしょうか。作品の中でその時代を象徴する若林夫妻がいい形で結末を迎えたことに「浅田さんありがとう」と言いたくなりました。

外見がださいもんはださいし、ブスはブス、男が女にだらしいないのも当然だし、人の悪口をいって憂さ晴らしするやつがいるのも当然。そう受け止めてくれる。金がなくて借金におびえる人生で死にたくなる、それも当然。悪いもんは悪いし、良いもんは良い。それをひっくるめて、やくざな彼らがすべてすくい上げてくれる。それを笑いという形で私達にプレゼントする。なんかそれがとてもうれしい。こんな自分でも、生きてていいんだって思える。なんか明日ががんばろうかなって、ほんの一瞬だけでもそう思える。

下手に道徳的に、画一な「人間的に素晴らしい」というより、「悪い部分良い一面、50:50で、ひっくるめて人間的だな」という方がよっぽど説得力があります。そう、彼らは愛すべきやくざなのだ。

監獄という名の安息の場。極楽温泉。行ってみたいですね。


素敵な言葉どもが記事の跡
一番良かったのは、感想の冒頭で書いた通り、ファックスのシーンです。でも、それは作品を見て探してください。長いので載せるのが億劫です。だから、下の載せるのは別です。仲オジがクラウンホテル側から支配人花沢を選んだ真相。

「情報を集めて、このあじさいホテルを俺の思う通りのリゾートにしてくれる男を(クラウンホテル関係者から)探した。案の定、ろくな人間はいやしねえ。どれもおしきせのホテルマンで、人の情をくめるようなたいそうな男はいねえ。だが、ひとりだけいた。十年前に赤坂クラウンを水びたしにしちまったそそっかしいヤツ。行く先々で支配人とやり合って、ひとところに一年と落ち着けねえ放浪ホテルマン。そのくせお客から山のようにお礼状や宅配便が届いて、届くころにゃ本人はおっつけどこかに飛ばされるってえ、おめでたい男さ。おい、花沢。善悪と大小は別だぞ。悪かったのはいつもおめえじゃねえ。クラウンホテルの方だ」




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