小説の感想・レビューです。ネタバレあり。物凄く更新遅いです。ご了承ください。訪問ありがとうございます。
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第三の時効 (集英社文庫)第三の時効 (集英社文庫)
(2006/03/17)
横山 秀夫

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前書き
人を殺すということは、その人の人生だけではなく、家族、周りの人達の人生も変えてしまう。
それは当事者に限らない。
警察官、裁判官、検察官、弁護士。。。

このストーリーは警察官の立場から客観的に殺人という犯罪の事実を見つめている。

他人の人生を自分勝手に変える権利は他人にはないのだ。
しかし、現実はその主張を不合理な事実としてくつがえしてくる。


ジャンル・タグ 
推理ミステリ・重量感(中)・バブル期・冷静で明晰な朽木・沈黙冷徹の楠見・直感力の村瀬・慎重派の田畑・人情深い伴内・道化師の矢代

評価  
最高  

男気とプライドの塊。いかにも高度成長期の男社会の話って感じです。文章は堅め。口調は無感情なしゃべり、江戸っ子口調、かたぎ気質。ミステリとしては練られていて劇的でうまい。覆して、また文章が工作され、また覆す、ミステリの極み。ただ、感情が置き去りにされるのが欠点。人間には感情はないかのごとく、読み手の気持ちとは一つと距離を置かれているような冷静さ、無感情さが含まれています。犯人を捕まえることだけに熱情を注ぐ無味の人間達。きっとそのことにがっかりするかもしれません。私の場合、どこか蚊帳の外におかれた気分でした。この本のイメージは残暑って感じです。その時に読むのが頃合でしょう。連作短編。とはいえ、一つ一つがなかなか重いです。

感想ネタバレ↓
時代はバブル期でしょうか。心情描写は少なく、状況描写が多い。基本、ここに出てくる警官たちは、責任感は強いし、闘争心は強い人が多いが、人情、愛情というものがなくて、無味な情熱を燃やしています。それがなんとなく、もったいない気がしました。それは、事件のトリック、推理等で読者にひきつけることはできるが、感動するような、グッとくることはあまりないです。しかも、ずるいです。衝撃的な事実だけを紹介するやりかたが狡猾です。

①沈黙のララバイ 視点 朽木泰正 ☆☆☆
本文より
あの母親の心には何もなかった。


母親は息子がなくなることを望んだのでしょうか。朽木の考えていることは予測にしか過ぎないと思います。交流もした事ないひとのことを情報だけで決めつけられても。たとえ、それが本当だったとしても、その息子に思いを馳せる者、即ち、残された者がいる限り、事件は「望まざること」だったと感じました。

②第3の時効 視点 森隆弘 ☆☆☆☆
どんでん返しのストーリー。なぜか、二班の楠木はここしか見せ場がないです。

「お母さんに聞いてごらん。君とお父さんは同じB型血液なんだ。犯人は違う。A型だ。警察でそうだとわかったんだ」
ありさは見開いた目で森を見た。信じようとしている。信じたいのだ。
竹内が捕まらなければこの嘘は永久に守られる。
突き上げる思いがあった。
つかまるな。
死ぬまでこの子の前に現れるな。
ありさの瞳をみつめながら、森はいっとき刑事の職務を放棄した。


私も森と同じ気持ちでした。知らないほうが幸せなこともあるのかもしれないです。ですが、結末はもっと私や森が考えているより悲しかったのです。やっぱり、知らなかったほうがよかったんですね。

③囚人のジレンマ 視点 田畑昭信 ☆☆☆☆
現在のF県警の急行犯係は確かに強い。かつてない強力な布陣だと誰しもが認める。だが、刑事部屋には笑いがない。喜びがない。昔気質かたぎの刑事があたり前のように持っていた余裕や洒落っ気が微塵もない。あるのはギスギスとした空気だけだ。事件に勝ち、他の班に勝ち、同僚に勝つ。競い、戦い完膚なきまでに相手を打ち負かす。ただその目的のために動いているフファイティングマシンの集団にほかならない。少しでも戦うことを躊躇ったらお払い箱だ。男じゃないと烙印を押されて排斥される。とても常人の神経では太刀打ちできない。島津にはこくだったのだ。

朽木といい、捜一課長の田畑といい、どいつもプライドだけで仕事をしている気がしてちょっと憤りを感じます。そんなでテンションで常に仕事が勤まっていけるのかと思いました。それにしても無味な人間達。

あんなに情が深くて、しかも、苦労人の刑事はもう現れませんね。せめて笑顔で一課を去ってほしいですよ。朽木や真木だけばかりだけではない。一班の心を読み取り、神妙に受け止めた。だから、「伴内さんに話しておきます」という言葉になったのだ。

「囚人のジレンマ」で結末でやっと無感情な警察官たちの愛情というか、思いやりを少しだけを感じることができました。確かに砂漠じゃなかったです。水は、緑は、小さくて隠れているけれど、根を張って水を蓄積させていることが確認できました。もっと伴内さんの情深いエピソードをはさんでくると感情移入もしやすかったです。できれば、伴内エピソードが「囚人のジレンマ」の話の前にあったらよかったなぁって思います。

④密室の抜け穴 視点 東出裕文 ☆☆☆☆☆
これは個人的に一番好きでした。村瀬さんの雰囲気がかっこよかった。だれも打開できない状況を救世主として村瀬が
「・・・ようするに、密室に抜け穴を作らせりゃあいいってことだ・・・」
とぽっつり言う。それで閃く東出。この時点でまだ謎はわからなかったけれど、さわさわと鳥肌w
そして、会議室の召集したのも、村瀬。なぜ、容疑者の早野が、マンションから忽然と消えたのかが、村瀬の演出により明らかになります。うわ、鳥肌。ただの悪態をつくおっさんかと思いきや、いざという時に決めてくる辺りがかっこいいです。後遺症で、職務に本腰入れて活動できなくても、班長の権利を東出にまわして自ら主導していなくても、だれもが、一目置くその直感力だけは切れ味の良さが鈍らず、ズバッときました。読み終わった後の心地よさがありました。なんとなく、①~③途中まで、ロボットのように無味で、本を読んでいての感じる躍動感が少なかったですが、ここに来て発揮され始めた気がしました。ちょうど、時代背景も、捜査一課のメンツのキャラクターのイメージも定着し先の3つの物語を経て物語として温まった時に、このストーリーはなかなかベストだと感じました。

⑤ペルソナの微笑 視点 矢代勲 ☆☆☆☆
ここもちゃんと、物語の躍動感というエンジンがかかっていていました。矢代の過去のトラウマは泣きそうになるぐらいほんとに切ない悲しい話だと思いました。子どもの頃のエピソードがグサッ、グサッと、心にきて。。矢代の気持ちも痛いほどわかるし、彼の母親の気持ちもそう。。。わらうしかなかったのかなぁー。そして、最後の妹の<テレビの悪い人の声ねー>は、ダメ押しのグサッが心に突き刺さります。かなしい。。
矢代は事件の道具という存在から、犯罪を憎む力にかえて、捜査課一班に。(誓いのために)笑わない男、朽木と共通する部分。矢代は「あの日」以来、道化としてたくさん笑う日々。矢代は「あの日」以来、一度として笑ったことはなかったのです(´・ω・`)
結末は「えっ、そこでおわり」って感じでした。もっと続きが気になったし、あと、一押し、矢代の本当の笑顔が見られるシーンがほしかったなぁ。あれじゃ、やっぱり、矢代は孤独のままじゃないですか。。

⑥モノクロームの反転 視点 一班と三班 ☆☆☆☆
すごい考えられているなと思いました。まさか、白がそんな見え方、脳の作り出した事実と繋げてくるとは。横山さんは警察ものだからではないだろうけど、「裏づけ」をしっかり載せてくるあたりがプロだなぁと感じました。

全体を通して言えることは、横山さんの個人の感情はあまり含まれていない代わりに、一つの犯罪で表面上見えないジレンマを現実的に表現したストーリーばかりでした。犯罪といえど、加害者、被害者の二対立構図ということだけでは語れないということをこの小説では学んだ気がします。心にグサッ、グサッ刺さり、私の心は穴だらけです。犯罪の目にあっていない私なのはどんなに幸せであるのかを思い知らされます。少し嫌なのは、劇的で派手さに終始しているところです。気持ち、感情という部分を表現してもらいたかったなという想いがあります。

とはいえ、ミステリとしては最高です。この感じなら、他の横山さんの作品も期待できそうです。


素敵な言葉どもが記事の跡
二度と笑わないでください。
死ぬまで笑顔を見せないと約束してください。
たっちゃんはもう笑えない。笑いたくても笑えない。
あなたがそうしてしまったんです。
いつまでも覚えていてください。
たっちゃんを死なせたこと、片時も忘れずにいてください。
どうかお願いします。
死ぬまで笑わないと誓ってください。

彼はちゃんと約束を守ってきた。
彼は今も守っている。
彼はこれからも守るだろう。





最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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この記事へのコメント
こんにちは。同じ本の感想記事を
トラックバックさせていただきました。
この記事にトラックバックいただけたらうれしいです。
お気軽にどうぞ。
2010/06/26(土) 18:00 | URL | 藍色 #-[ 編集]
Re: タイトルなし
藍色さん
こんにちは。
私も藍色さんの感想記事をトラックバックさせて頂きました。

2010/07/01(木) 05:36 | URL | リリ #-[ 編集]
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