小説の感想・レビューです。ネタバレあり。物凄く更新遅いです。ご了承ください。訪問ありがとうございます。
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きみにしか聞こえない―CALLING YOU (角川スニーカー文庫)きみにしか聞こえない―CALLING YOU (角川スニーカー文庫)
(2001/05)
乙一

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前書き
「Calling You」
私には友達がいない。今どき携帯電話も持っていない。当然、携帯を使って話す相手もいない。しかし、携帯を持っていることをよく想像する。色は?どんなデザインに?ストラップは?妄想から出来上がった私の携帯電話。ある時、かかるはずのない「私の携帯」からコールがかかった。「...もしもし」

「傷 KIZ/KIDS」
人の傷をみると、とても痛々しい気分になるんだ。切り傷でも、すり傷でも。だから、僕が少しでもその痛みを取り除いてあげたい。僕が傷を受け取って傷を治してあげるんだ。その方が傷を負った人を見るよりずっと僕は気持ちが落ち着く。傷が治った時の喜んだ顔、ほっとした顔をみると、誰にも必要とされていない僕でも誰かの役に立つんだと誇りにできる。喜んでくれるのがとてもうれしい。いくら多くの傷を僕が背負って痛い思いをしても、誰かのためになるなら。

「華歌」
いまでも、私の心の中には、歌を歌う花、故郷に帰した時の目が輝かしたあなたの表情を忘れない。あなたの歌声は今までも、思い返せばよみがえる。やっぱり故郷に帰してあげられてよかった。やっぱりあなたは一番それを望んでいたんだね。病室の皆、あなたに癒しをもらってた。当然、私も。我が子のように愛しいかった。それにしても、この世に生まれるということは、なんと辛く、そして光に満ちているのだろう。また、口ずさむよ、鼻歌を。

ジャンル・タグ 
ローファンタジー・現代・重量感(小)・頭の中の携帯電話・世界が赤色から空色に染まる頃・強い想いが産んだ華

評価   
良書

乙一さんの切ない短編集。この小説にはホラーは一切ないです。妄想チックな、幻想チックなローファンタジーです。ページの合間にイラストあります。薄いのですぐ読み終えられるでしょう。相変わらずネガティブシンキングなストーリー達です。物思いにふけっていたい時に読みましょう。華歌なんかは夏の夜に自然香る場所で読むとムードが出るかも。心情描写が負満載なので、明るさを求めるのはこの本ではありません。


感想ネタバレ↓
「Calling You」 ☆☆☆
正直、乙一さんの物語の始まり方はどれも同じような状況設定が多い気がします。この「Calling You」は学園・友達が一人もいない・妄想が現実化・ネガティブ・切ないという定番です。なので、あまり期待していなかったです。ワクワクがあまりなかったです。特に妄想が現実化は、乙一さんの前回のご紹介した作品の平面いぬでも「はじめ」でも使われていてデジャブがありました。ただ、乙一さんの切なさというカードはいつ出されても胸に詰まるものがあります。道徳的でも悲劇な物語。いつも最後は切なさの風が吹きます。主人公の成長に乾杯。

「傷 KIZ/KIDS」 ☆☆☆☆
このタイプの話には私は弱いです。個人的にはこの小説の中で「傷 KIZ/KIDS」の最後のシーンが好きです。どんなに欺かれたり、裏切られても、その純粋な無垢なアサトの優しさがとても悲しくて切ないです。主人公の友達、アサト。彼は身体的な傷を自分にうつすことができるのです。うつして貰った相手は傷が治り、アサトが傷を負うのです。彼は優しい。傷を負っている人を見ると自分を犠牲にして傷を受け取るのです。乙一さんの小説はいつも悲しい結末が待っているのでいつも読み終わった時に切ない思いにさせられます。が、今回はなんかうれしい。なんか嬉しい結末でした。雨上がりの晴れ間の爽やかな風にあったような気分になりました。生きているってことは誰だって汚い部分や嫌なことに触れて、ムカついたり、やけになったり、死になくなったりことを誰だってあると思うですけど、それでも、だけど、ちゃっと分かってくれる人はいることを知ることは案外気付かないもんじゃないですか。そのことに気付けたら、儲けもんですよね。アサトは、主人公は、その儲けもんをしたんです。あんまり期待して読んでください。そのぐらいで読むのがいいです。

「華歌」 ☆☆☆☆
タイトルが「歌」とつくからなのか、詩を吟じるような、ポエムのような、詩的な文章です。その効果なのか、幻想的な気持ちにさせてくれます。他の二作も同様ですがこれも、自分の生きる価値はどこにあるのかという自問自答、リアリズムの世界が含まれています。
個人的には、中川が、看護婦に歌う花を隠すのに参加しなかったのに、歌う花が歌い出し、里美にばれそうになって、主人公の困っている状況で合いの手を入れた些細な優しさに笑顔が出ました。なんか不器用な優しさで。
<本文より>
それまで静かに本を読んでいた中川が、華歌を重ねた。音痴であるのか、はじめて聞くその音程は酷く外れていた。他人の視線に気づかぬそぶりで歌っていたが、やがて見られていることにたった今気づいたという演技で里美の方を見た。そして口を広げ、金歯を見せて笑いかけた。

ひとつ、勘違いをしていたことがありました。主人公が男ではなく、女だという根本的なとこです。最後のシーンで勘違いに気付きました。ということは、病室の同室者、ハルキ、中川も女性だったんですね?最初のキャラ説明で男性だと思ってしまいました。


素敵な言葉どもが記事の跡
長いです。傷 KIZ/KIDS」の最後のシーン
乙一さんしては未来を期待させる最後の言葉に惚れました。


人生はどこまで歩いてもそこは汚い路地裏で、曲がり角を曲がるたび、野良犬の死体とドブ川の悪臭で気が狂いそうになる、だから、シホがいなくなった時も、ああ、またかと思ったんだ。
 
お前を見ているうちに世界がそんなひどいもんじゃないってわかった。この町は見渡すかぎり錆とガラクタに覆われていると思っていた。でも、そうじゃなかったんだ。お前は唯一、無垢だったよ。悪い人間だと思っていたやつの中に、少しでもいい部分があるように、神様はこの世界に、心の澄み切ったおまえのようなやつを作ったんだ。

あまりに無垢だから、何度も人に裏切られ、傷ついて絶望するかもしれない。だけど、これだけは知っておいてほしい。お前は大勢の人間の救いなんだ。おまえが、いつも優しくて、ひとのことばかり考えているということが、はるかに多くの人間を暗闇のような場所から救いあげるんだ。だからおまえがいらない子なはずがないよ。おまえが死んだら、オレはきっと泣く。

中略

遠くに広がる町並みを眺め、どこかにいる母さんやシホのことに思いを馳せる。この青空の下、幸せな日々を送っているといい。裏切られた怒りや悲しみなど微塵もなく、そこにはただ懐かしい人を偲ぶ穏やかな気持ちが広がる。

つらいことは過ぎ去った、これからだんだん良くなっていく、そう思えた。




最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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